一般社団法人ママリングス
脱孤育て推進事業 「虐待予防研修プログラム」1日目レポート

去る11月6日に江東区との協働事業である「子ども見守りにむけて:児童虐待予防研修プログラム1日目」が開催されました。
ママリングス プロボノ(広報担当)の藤浦が当日の様子をお届けします。
今回、お集まりいただいたのは土曜日の18時という日時にも関わらず総勢120名余り。
地域の子育てに関わっていらっしゃる町会、各委員の方からNPO団体や行政、ボランティアの方まで幅広いバックグラウンドを持つ方々です。
1日目は講義中心となり、その内容も時には専門性が高い部分もあったのですが、皆さん非常に熱心にその内容を拝聴し、メモも積極的にとっていただいていました。
以下それぞれの講義の概要をわたしの感想も含めご紹介しますね。
<1日目のプログラムの概要>
⓪こども見守りプログラム実施目的 (一般社団法人ママリングス 代表 落合)
講義の最初に,弊法人代表の落合から,
プログラムの実施目的を皆様にお伝えしました。
まずは,虐待について知ることで
私たち(市民)が虐待予防にとり組むことができ,
そのさきに子どもへの「あたたかいまちの目利き」がある状態を
つくりだすことができます。
まずは,今実際に起こっていることを知ることが非常に重要なんですね。

①江東区における児童虐待の現状(江東区こども未来部こども家庭支援課養育支援担当 藤原紀子)
この日は,江東区役所職員 保健師でもある藤原係長の江東区における児童虐待の現状の講義からスタートしました!
講義の冒頭,子どもの虐待が起こる4つの原因(H.Kemp)
を最初に紹介いただき,
その中でも,
「 親側:愛された体験がないこども時代、傷つき」
「心理社会的な孤立相談者援助者がいない」
この2つの原因は,周りの人々とともに
親子をサポートすることで,状況を改善できることがわかりました。
下町固有の文化に培われた人情味あふれた地域である江東区だからこそ
児童虐待受理件数が増え続ける今,
関係機関と地域住民が協力して親子をサポートしていくことが大切ですね。
相談機関における児童虐待対応は,
「保護者を罰したり、責めたりするためのものではない」
「⽀援が必要な家庭に、⽀援を開始すること」
がポイントのようです。
⽀援者ができる、「ちょっとふみこんだおせっかい」を積み重ねながら
こどもを⽀える仲間が増やしていけたら少しずつでも確実に何かが変わっていくんだ!と感じました。

②江東児童相談所から伝えたいこと〜子供を虐待から守ために〜(江東区児童相談所長 大浦俊哉様)
この日2つ目の講義は,江東区児童相談所長の大浦様の講義でした。
まず,2016年の児童福祉法改正により,それまで以上に「児童」を主語にした,
「子ども」を中心とした,サポートができる仕組みづくりが進められていることを教えていただきました。
子どもにとって「守られている」と実感することがとても重要です。
まずは地域の子どもに目を向けることで,多機関で連携をしながら子どもを地域で見守っていくことが大切ですね。
その後,実際に区民と子ども家庭支援センターが連携し,親子の援助につながった事例を紹介いただき,
改めて
・地域住民の目,感性,高いアンテナを持つこと
・1人で悩まず相談機関に伝えること
によって
子どもを虐待から守る一員となることができることがわかりました。

③チャイルドファーストの視点と虐待予防児童虐待概論 (松⼾市⽴総合医療センター⼩児科 小橋先生)
実際に医療現場でご活躍されている小橋先生には,今起こっている児童虐待に関する講座をおこなっていただきました。
印象的なさまざまなデータを教えていただき,実際にその一部をまとめてみます
1:年間虐待死亡推計:350人/年
→1日約1人の子どもが「虐待の可能性のある」状況で死亡している
2:心理的虐待が 1万件/1年で増加
→面前DVが心理的虐待にカウントされ始め,平成24年までは身体的 虐待が1位だったが、近年急激に心理的虐待が増加傾向
3:児童虐待通告の通告元の医療・教育現場の割合 :アメリカ34.9%,日本9.9%
→日本では医療・教育現場で虐待のサインを受け取って通告することが現状できていない可能性がある
現状を知ることによって,今の課題,また改善の必要性を改めて認識できますね。
「子どもにとって」その行為が「子どもの安心安全」を阻害していないか。
子どもを主語にして考え,共有,連携,行動することで
機能不全に陥った関係を改善し,負の連鎖を止めることが何よりも大切です。

④虐待予防において理解しておきたい児童虐待各論〜小児医療チームの視点から〜(ジャパングリーンクリニック小児科医 内山健太郎先生・賛育会病院小児救急看護認定看護師 塚松このみ先生)
この講座では,塚松先生が体験された,実際に現場で起きた事例の紹介から始まりました。
その当時の状況,そしてその悲しさが伝わってくる語りに全員が引き込まれ,当事者の気持ちへ引き込まれていきました。
その上で
1:子ども虐待を疑うこと,通告は,
・虐待かそうではないかの情報収集
・家族と子どもへの支援のきっかけ(子どもの安全確保・保護者への各種支援)
であること
2:子ども虐待現場には「傷つき,困り,疲れ果てた親御さんもいらっしゃること
を教えていただきました。
いざ,虐待の疑いがある現場に遭遇したときに
・きづく(虐待にきづく,気になる親子にきづく)
・連携する
・地域で一緒に支える
ことが何よりも大切なようですね。

⑤虐待予防において理解しておきたい児童虐待各論〜小児歯科専門医の視点から〜(東京⻭科⼤学小児歯科学講座 講師 辻野啓一郎先生)
次に現役小児歯科を専門とする辻野先生から,小児科専門医の視点から,
子ども虐待予防に関して講座をしていただきました。
小児歯科は「成長発達の過程にある小児」を対象とした歯科です。
そのため,成長過程の歯を見ることで乳幼児期の養育環境などに関しても仮説を立てることができるようです。
実際には,歯や口の中の外傷,また重症のむし歯(適切な食生活、あと磨きなどの管理が行われていないため)から
身体的虐待やネグレクトの可能性を察知することができるようです。
一方で,重要齲蝕が必ずしもネグレクトではないため
歯や口の中の様子に加え,服装や頭髪の状況も確認することで
3歳児歯科検診など,子どもとの関わりの多い小児歯科で
早期虐待発見を行い,地域と連携していく可能性があるようですね。

⑥現代の親と子どもを支えるために私たちができること(江東区児童相談所 課長代理(心理指導担当)大野 和久様)
そして,この日最後の講義では,江東区児童相談所で心理指導を担当していらっしゃる大野様より
現代の親と子どもを支えるためにできることを教えていただきました。
大野様いわく,「親を支援すること」は,「知ること・理解すること」とのことです。
いつの時代も,子育ての環境・常識は変わり続けています。
(例:スプーンの親子での共用は虫歯菌をうつすことにつながるためNG,3歳児神話など)
変化に伴い、⽀援のあり⽅も変化すること,そのためにまずは知ることがとても大切です。
価値観が多様化し、個⼈が尊重されるようになったことから,1人1人にあった支援が求められます。
正解はないからこそ
納得できる答えを一緒に探すことが,今の支援には求められているようです。
子どもを守る地域の一員として
子どもと緩やかなつながりを持つことが大切なようですね。

5.ご来場された聴講者の様子

この日の講義には100名を超える江東区の方々に集まっていただきました!
集まっていただいた方々は,40代以上をメインとした様々な年代の方々で,
男性も女性も多くの方々に参加いただきました。
実際に講義では,
実際に起こった事例に胸を痛め,当事者意識を感じられる方,
児童虐待に関するデータに対して驚きつつ,忘れまいとメモを取られる方,
実際に自分が子育てを行ってきた当時と,いまの環境・常識の違いに驚かれる方
など,それぞれの姿勢,気持ちで望んでいただいておりました。
それでも皆様に共通して感じたたことは
・自分自身が児童虐待を予防していくための地域住民としての自覚
・できることを少しでも吸収しようとなさる姿勢
でした。
これだけ多くの方と一緒に
江東区をつくっていけることの有り難さ,そして頼もしさを
強く感じることができたプログラムでした。
以上、長文となりましたがご報告です。
2日目のプログラムは1月13日と17日の2日間に分けて開催。
子どもと自分たちの関わり方に気づきをえるロールプレイングなどを盛り込んだプログラムになります。
引き続きレポートしますのでお楽しみに!
(書き手:ママリングス広報担当 藤浦)

参考: